[女装小説]最愛の姉への思い・第四章「はじめての女装」

女装小説

(第三章よりつづく)

第四章    はじめての女装

大翔の、はじめての女装の様子。見つかることが心配がゆえに、かなり慎重に計画的に、実行に移したのであった。

それは、綿密に計画を練って、行われた。

ターゲットは、学校は午後いちの授業が終わったらおしまい、かつ定期試験前で部活もないという、とある1日。母は仕事、優菜も学校とバイトで、家には夜まで誰もいないことを、予め確認していた。

授業が終わってそそくさと帰り、自宅に着いたら、逸る心を必死に抑える。

「落ち着いて、落ち着いて」

欲望のままに動いてしまうと、思わぬ落とし穴に嵌ってしまいかねない。計画を慎重に進める。

まずは弁当箱洗いと、洗濯物の取り込み。それに晩ごはんのかんたんな仕込みまで。母から頼まれていた一連の家事は、手慣れた手順でとっとと済ませてしまった。

「まだまだ。あせらないように...。」

玄関と窓の鍵が、きちんとかけられているか、念には念を入れて十分確認する。外は明るいというのに、家中の窓に、レースのカーテンを閉める。

あろうはずもないことながら、誰からも家に入ってこられたり覗かれたりしないように。自分がこれから行うことが、決して他の人にばれないように。心配で、心配で、ならない心情の現れである行動である。

さらには、トイレに入り、用を足す。浴室に行って、シャワーを浴びる。


その前には、この日は着てもない部活のジャージを、少し濡らして洗濯物のかごに入れておいた。また、玄関にジョギングシューズを出して、見える位置に置いておいた。

「定期試験勉強で身体が訛らないように、部活はないけど、帰って来てからランニングしてきたよ」

といった言い分が立つようにしておき、シャワーを浴びたことが不自然に思われないようにするためだ。


浴室では、頭と身体を丁寧に洗い、髭まで剃る。少しでもきれいな身体となりたいためである。タオルで入念に身体を拭いて、髪を乾かす。

いよいよ時は近づいてきた。

「もう、いいだろうな。いよいよ、行こう。」

そのまま体にはなにもつけず、タオルだけを身体に巻いて、だれもいない家の中を歩きだす。


緊張しながら足が向かう先は、そう、奥のクローゼットである。

タンスに辿り着き、中を開ける。

「あった...。」

目の前に再び、優菜のセーラー服。


タンスから取り出し、ハンガーから外して、手に取ってみた。空気を受けてふわりとしたスカートの先端が、大翔の太腿にあたる感覚がした。

心の中で、最後にもう一度、優菜に詫びる。

「お姉ちゃん、ごめんね。今日だけ。この1回だけにするからね。ごめんね...。」

鏡も見ているわけでもないのに、自分で自分が赤面していることが、アンバランスな体温の感触でよくわかる。


こわごわと、両手にスカートの開放部を持つ。そして自分の膝より下まで持って行く。

そこに、足を通す。右足、左足。

両足を輪の中に入れたまま、両手を上に上げる。

腰のフックを、パチッと止める。お尻のあたりのファスナーをジーっと締める。

「はいちゃった...。」

自分の身体とスカートが、一体化した。

はじめてのスカート、はじめての感覚。


ほんの少しだけ腰を動かしてみると、スカートの裾が揺れた。裾が膝下あたりに当たるのを感じた。

お尻から足元にかけて空気が広がる開放感は、まったく初めてのもの。不安感もあるが、それ以上に、とてつもなく心地が良い。ドキドキが止まらない。

無言で、次は上のセーラーを手に取る。

頭上に上げ、首を通して顔を出す。右手・左手と、袖から通し、さらにお腹までおろす。

胸元と、手首のボタンを、またパチッと止める。


サイズがやや心配していたが、ピッタリで安心した。女子にしては身長がやや高い優菜に、感謝した。

お腹までおろし、脇のファスナーも、ジーっと締める。手足やお腹の皺を、きれいに伸ばして整える。スカーフを首の後ろに回し、胸元で結ぶ。

...完成。

「ついに、着ちゃった...。」

大翔にとって、これが生まれて初めての、”女装”であった。

言う間でもなく、大翔はとてつもなく上気し、気分は最高潮に達していた。傍の鏡に目を向けた。全身が映る、大きな姿見。そこには...、あこがれのセーラー服を身に纏った、自分が映っている。待ち焦がれていた自分が、そこに立っている。短髪で日に焼けた男子が、女子のセーラー服を着て、目の前に立っている。

右手を上げたり、首を傾けたりするのと、鏡に映る彼女も連動して動いている。紛れもなく、それは自分の姿である。

「...、うれしい」


大翔の心の中が大感動に包まれていることは、説明の間もない。恥ずかしさと心地良さで、なんとも言い表せない心境であった。

鏡の自分を見つめた後は、そのままの姿で家の中を歩いてみた。いつものリビングやキッチンを歩く。この姿でいると、見慣れた風景も、不思議と違う場所にいるような気分になる。

***

歩きながら洗面所に達し、再び鏡に映る、自分のセーラー姿。ここで、またふと気が付く。

「いまこの場に、誰かが入って来て、これを見られたらどうしよう?」

誰もいないはずなのに、不安が常につきまとう。


ほんとうはもっと長い時間、ぎりぎりまでこれで過ごしたいはずなのに、こんどはその不安が勝ってしまう。

怖気づいてしまい、10分ほどで、すぐにクローゼットに戻ってしまった。セーラーもスカートも脱ぎ、元の男子の姿に着替えてしまった。セーラー服は、丁寧にハンガーに掛け、元の位置に戻す。


自分がここに入ってきた痕跡が一切残らないよう、細心の注意を払って、クローゼット内を片付ける。家中を歩き回り、おかしな点がないかどうか、入念にチェック。大丈夫であることを確信したら、レースのカーテンを開ける。

これでようやく、平時の平日午前に戻したこととなった。あとは何事もなかったように、ふつうに時を過ごすことになる。

家族が家に揃った。冷や冷やしながら黙って、母と優菜の様子を、ずっとうかがっていた。しかし、なにか違う様子に気付いた素振りは、ふたりともなさそうだ。

自分の部屋に戻って、ほっと胸を撫でおろす。大翔の初の女装計画は、完璧な形で終えたことになる。


しかし、余韻は冷めやらないものであり、自分の行為に対するあまりもの感激と快感に、陶酔してしまっていた。ようやく夢が実現したよろこびで、頭がいっぱいであった。

定期試験の1週間前でありながら、この日は夜まで、机に向かっても何も頭に入ってこなかった。

寝床でも、あの鏡の中の自分に酔いしれてしまい、自らの心と身体を尽きるまで慰めていたのであった。

これが大翔の、新しく、長く、違った人生のはじまりであった。

(第五章へつづく)

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