[女装小説]最愛の姉への思い・第六章「姉弟の絆、家族の絆」

女装小説

(第五章よりつづく)

第六章    姉弟の絆、家族の絆

優菜の理解を得られ、そのまま優菜からの協力を得て、母の直美に、女装のことを伝える大翔。

ふたりで優菜の部屋にすわり、そのまま話を始めた。

話をすると、どうも優菜は、クローゼットのセーラー服を誰かが着たような痕跡に、気付いていたようだ。そして、よく調査をし、大翔が家に一人になるタイミングでその痕跡がつよくなっていることも、掴んでいたようだ。

でも、あえて大翔を問い詰めはせず、徐々に心の整理をつけ、受け入れてあげる準備を進めていたことを、聞かせてくれた。

「さすが、お姉ちゃんだ。頭がいいね。」

「ひろくんとは、一緒に何年暮らしていると思っているの?ひろくんが思っていることは、ちょっと考えれば、わかるわよ!」

ふたりで笑顔になった。


「でもね、ひろくん。」

「なに?」

「あのね、こっそりわたしの下着を着けることだけは、やめてね。」

下着のこともばれていたようだ。

「女性の下着って、とてもデリケートなのよ。洗濯したあとで、一度でも使って伸ばしちゃうと、生地の様子ですぐにわかるものなのよ。」

「あ、そういうもの、なんだね...。ごめん。」

「だからわたし、毎日下着のチェックだけは、欠かさなかったのよ。」

「そうだったのね、ごめんなさい...。」

「うふふ、もう、いいのよ。」

ふたりで笑い声を出して笑った。


それから日が暮れるまで、ふたりの話がつづく。保育園時代からセーラー服に憧れていたこと、きれいになっていく優菜にときめいていたこと、初めてセーラー服を着た日のこと。思いのままに話す大翔の話を、優菜は真剣に聞いてくれていた。大翔のことを、よく理解してくれた。

そして、こう言った。

「ひろくん、あなたが自分の心に素直になってくれて、ほんとうにうれしい。」

優菜は、幼いころからおとなしい大翔を、いつもフォローしていたのだ。

つらいことがあっても、周りはそれを感じていても、大翔はだまって耐える性格であった。

そんな大翔を影から支え、ときには気持ちを汲んで代弁し、ときには言いたいことが口にできるよう会話の流れをコントロールするなど。


大翔が自分の目の前の壁を越えた姿が、優菜はとてもうれしかった。

***

それからというものは、優菜の後押しを得るようになり、それまでの大翔が夢見ていたことが、トントン拍子に進みだした。

数日して、優菜が大翔に話しかけた。

「ひろくん、女装のこと、お母さんには言っておかないとね。」

大翔は驚く。

「えっ、お母さんに言っちゃうの?」

「そう。こういうことは、家族公認にしちゃう方が楽なのよ。家族の中ではなるべく、隠し事はやめましょう。」

「う~ん。お母さん、怒らないかな?」

「女の子になることって、ひろくんが、心からやりたいことなのでしょう?だったら、隠れてこそこそしていちゃ、だめよ。」

躊躇いながらも、優菜の助言は、よく理解できた。

「...うん、わかった。お母さんに、言うね。」

不安な顔の大翔を安心させるように、優菜は諭す。

「大丈夫よ。お母さんだってきっと、ひろくんの気持ちは、わかってくれるわよ。わたしからも、一緒に言ってあげるわ。」

「。。。うん。」


その晩、母・直美も帰宅し、3人で夕食を済ませた。そのあと、大翔は部屋に戻り、優菜が直美に話しかける。

「お母さん、ちょっと、話があるけど、いい?」

直美は仕事のあとで疲れているであろうが、そんな素振りはいっさい見せない。

「あら、めずらしいわね。なにかしら?」

快く受け入れてくれている。

優菜が大翔のことを説明している。真剣に優菜の話に耳を傾ける直美。

大翔の女装のこと、さすがに少し動揺したらしく、表情はやや驚いたものの、すぐにおだやかに緩みはじめた。

「じゃ、呼んでくるね。」

優菜は大翔の部屋に、リビングまで来るよう、呼びに向かった。しばらくして、優菜に連れられた、セーラー服姿の大翔。

女子になった、はずかしい姿で、母の目の前に立つ。

「どんなにびっくりされるやら...。」


こんな従前の心配は、まったく不要なものであった。直美はうれしさ全面に、満面の笑顔で迎えてくれた。

「うわぁ、ひろくん、かわいいじゃない。素敵よ。」

そして、大翔を抱きしめる。

「ばかね、ひろくん。我慢ばっかりしていちゃ、だめよ。早くお母さんに言わなきゃ」

反応も、かけてくれた言葉も、優菜の時とまったく同じであった。

もちろん、横では優菜も笑顔で立ってくれている。


「ほら、だから言ったでしょ。お母さんはきっと大丈夫だって。」

ありがたかった。あれだけ奥底に秘めていた自分の思いを、直美も優菜も、正面から受け入れてくれているのだ。

家族の理解に対し、大翔には、これ以上にない感謝の思いが込み上げている。

(第七章へつづく)

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