( 第二章 よりつづく)
第三章 誰もいない日曜日
家事を手伝う大翔が、タンスの中に思わぬものを発見。それは幼少期から憧れていた、セーラー服であった。
---2014年、田口大翔、16歳。
大翔は既に高校生、姉の優菜は大学生となっていた。
とある日曜日、この日は珍しく、母も優菜も外出に出掛けてしまっていた。家では大翔がひとりきり。
お昼過ぎ、いつものとおりの家事の手伝いで、洗濯物を取り込んで片付けていた。ちょうど季節の変わり目の時期。どうも母が、恒例の衣替えを行っていたらしい。奥から出されたであろう春物の衣服をいっぱい洗濯機に入れたようで、いつもよりも多めの洗濯物が干されていた。
すべて取り込んでたたみ、自分の分、母の分、優菜の分と、たたんだ服をまとめる。そして、それぞれの場所にしまいに、洗濯物を持って行く。
「この冬物はきっと、こっちにしまうものじゃないかな?」
気を利かせたつもりで、冬物一式を持って、少し奥にあるクローゼットまで運ぶ。
「たぶん、ここでいいんじゃないのかな?」
普段はあまり開けない、大き目のタンスを開ける。
すると、
「あ...。」
明けたタンスの中には、あまり使わない服がいっぱい、ハンガーに掛けてしまわれていたが、その中のひとつ、優菜の中学時代のセーラー服が目に止まったのだ。
「これは、お姉ちゃんのセーラーだ...。」
大好きな優菜の、中学時代のセーラー服。幼いころからのずっと憧れでもあったセーラー服が、すぐ目の前にある。
防虫剤の香りがほのかに漂うタンスの前で、空気の流れが一瞬で止まり、無言でそれをながめる大翔。手を伸ばして、セーラーに触れてみる。夢にまでみた触感であった。
次第にいけない欲望が、どうしても頭に湧いてきて、抑えるのが厳しくなってきた。
「今だったらだれもいない。着ることだって、できそうだ。今って、すごいチャンスなんじゃないか?」
しかし、衝動にかられそうになるものの、辛うじて思いとどまった。
「いけない、いけない。お姉ちゃんの大事な思い出が詰まったセーラー服だよね。ぼくが勝手に着ちゃったりすると、お姉ちゃんの思い出をけがしてしまうことになっちゃうよ。」
どうも、大翔なりの理性の方が、上回ったようだ。
「だいたい、男がセーラー服を着るなんて、恥ずかしい話だろ。ぼくは男だから。だめだ、だめだ。そんな思いを持っちゃ、だめだよ。」
思いをぐっと飲み込んで、そのままタンスの扉を閉めた。
***
その場はそれでなんとか抑え込めたものの、その後は想像される通りであった。その日は、テレビを観てようが、ご飯を食べようが、眠りに就くほんの少し前まで、セーラー服を着たい願望が、頭からまったく離れないでいたのであった。翌日、夜が明けても、登校中であっても...。
徐々に、あの日にセーラーを着なかったことが、日に日に大きな後悔へと育っていったある日、ついに意を決することとなった。
「よし、ぼくも勇気を出して、着てみちゃおう!」
( 第四章 へつづく)

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