[女装小説]最愛の姉への思い・第五章「ひとつの紙袋」

女装小説

(第四章よりつづく)

第五章    ひとつの紙袋

帰宅すると、机に置かれてあった紙袋。中を見て、姉の優菜が、大翔の女装をお見通しであったことを知ったのだった。

―――2015年、田口大翔、17歳。

あの日の「1回だけ」などとの誓いは、本能の前にすると制御など効く筈もない。

当然のごとく、時間をみつけては、セーラー姿の自分に会いに来るようになる。何日も前から家族のスケジュールを確認し、だれもいなくなる時間帯にはいつも着るようになる。女子で過ごす時間も、回を重ねるごとに、長くなっていった。ときには仮病を使い、学校を休んで、女子の姿で過ごした日もあった。

また徐々に、欲望も高まっていった。罪悪感と闘いながら優菜の部屋に入ることもあった。

下着を借りて着けてみたり、外出用のワンピースを着てみたり、ドレッサーの引き出しから口紅を見つけ、つけてみたり。

ひとりだけの女装タイムを楽しむ大翔であった。




そんな、とある日。学校から帰宅する。母はまだいない。優菜は先に帰って来ていて、自分の部屋にいるようだ。

自分の部屋に戻る。勉強机の上に、少し大きめの紙袋が置いてある。心当たりはない。

「なんだろう?」

中を開けると...、なんとそこには、真っ白で新しい女性用の下着。



「えっ?なにこれ?」

メモが入っていた。

「ひろくんへ。勇気を出してね。ほんとうの自分になってね。」

これは...

「...お姉ちゃんの字だ。」

しばらくなにも考えられず、その場に立ち尽くす。

そして、ようやく頭が働き出す。

「そっか...。ぼくの女装のこと、お姉ちゃんはやはり、わかっていたのか。気付いてないふりして、黙っていてくれていのか。」

申し訳なさと、後悔と、恥ずかしさで、涙さえ出そうになった。

「...。」



どれだけ時を過ごしたかわからないが、ひととおり自分の中で整理はついた。こんどは、うれしさでいっぱいになる。優菜のやさしさが、改めて心に染みる。

「お姉ちゃん、ぼくのことを思って心配して、こんなことしてくれているのだろうな。」

心の中に小さな火がついて、ちっぽけな自信が芽生えたのを感じた。

大翔は、心を決めた。

「お姉ちゃんには、見てもらいたい。なんでもわかってもらいたい。」

さっそく、行動に移した。


奥のクローゼットからセーラー服を取り出し、自分の部屋に持って来る。優菜からもらった袋から、下着を出してタグをとる。着ていたものをすべて脱ぎ、下着を身に着ける。その上からセーラー服を着る。手順もすでに、手慣れたものになっていた。

女子になったその姿で、自分の部屋を出て、優菜のいる部屋の前に立つ。

しかし、いざというところで、やはり足が止まってしまう。これが自分の弱さなのであろう。

男なのにセーラー服を着ている、恥ずかしい姿で、優菜の前に現れようとしているのだ。こわくなって、少し足がすくむ。

だけど、この向こうには、きっと理解してくれているであろう、優菜がいる。そう思って、勇気を絞り出した。


コンコン...ドキドキしながら、ノックした。

「お姉ちゃん、いる?」

静かにドアが開いた。いつもどおり、大好きなお姉ちゃん・優菜が、セーラー姿の自分の正面に立っている。

こちらを見つめている。そして、すぐにうれしそうに微笑んで、なにも言わず、大翔をそっと抱きしめてくれた。

「お姉ちゃんが、ぼくを抱きしめてくれている...。」

しばらくそのまま時が過ぎ、優菜が耳元でやさしくささやいてくれた。

「ひろくん、ありがとう。自分の好きな姿で、わたしの前にきてくれたのね。」

お姉ちゃんは、なにもかもわかってくれていた。

「ずっとひとりで、我慢していたのでしょう。だめよ、お姉ちゃんに早く言わなくちゃ。」

優菜のやさしさが心に染みた。


「お姉ちゃん、実はぼく...、ずっと...。」

声が震えて、うまく言えない

「いいのよ、ひろくん。無理して言わなくてもいいの。」

優菜は心情まで察してくれていた。

「ありがとう、ありがとう、お姉ちゃん。」

「ごめんね、お姉ちゃん。男なのにぼく、ずっとこの姿が、好きで好きで...。」

「ううん、そんなことないよ。気付くのが遅くて、ごめんね。」

大翔は、涙が出て来て、しばらく止まらなくなってしまった。

(第六章へつづく)

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