[女装小説]最愛の姉への思い・第七章「あすか、誕生」

女装小説

(第六章よりつづく)

第七章    あすか、誕生

直美から女子でいるときの名前を、あすかと命名される。あすかは優菜の主導のもと、女子化計画にそって修行をはじめる。

しばし女子3人での会話がつづく。優菜はもちろん、直美も心なしか、うれしそうな表情を浮かべているように見える。

「ひろくん、あなたがずっと心の中に潜めてがまんしてきたことを伝えてくれて、とてもうれしいのよ。」

「お母さん、それ、わたしも同じことを言ったのよ。」

「あら、そうなの。やっぱり優菜も、そう思うわよね。だって、ひろくんったら、なかなか本音を言ってくれないのだものね。」

「そうなのよ。ひろくん、わたしたちがどれだけ心配していたと思うの?」

思っていることを伝えることが不得手な性分であることは、大翔自身も悩んでいたことである。そのこともわかっていてくれていた家族に対し、大翔はますます、感謝が染みわたる。

「ところで、ねぇ、ひろくん。あなた、名前はあるのかしら?」

「え?名前って?」

「そう、名前。女の子の名前よ。」

「そうよ、ひろくん。その姿で、大翔はないでしょ。」

名前だなんて...、急に問われ、戸惑う大翔。

「そ、そうだね...。名前って、考えてなかった。」

「でしょ?、わたしたちで、かわいい名前を付けてあげたいな。」

直美は少し考えて、

「そうよ、ひろくん、あなたの名前、今日から あすか にしましょう」

「え?、あすか?」

あすか...、妙にマッチした名前に、すこし驚く。


「そう。あなたの名前は、あすか、よ。」

「う、ん。でも...、どうしてなの?」

懐かしむように、直美が語りつづける。

「あなたが生まれる前に亡くなったお父さんが、考えていた名前のひとつなのよ。男だったら『大翔』、女だったら『あすか』ってね。」

「そうなの?」

「へぇ~、そうだったの、お母さん。」

この話は、優菜にとっても初耳だったようだ。

「そうよ。お父さん、毎日一生懸命、考えていたのよ。何冊も本を読んで、ね。でも、あなたの顔を見る前にあの世に往くことになっちゃって、さぞかし無念だったと思うわ。」

「そうだったのか...。」

大翔は、会うこともなくこの世を去ってしまった父のことを、急に恋しく感じたのだった。

「お父さんが考えて、残してくれた名前なのね。」

「ひろくん、じゃぁ、この姿でいるときは、あすかになってもらっても、いいかしら?お父さんも、すごく喜ぶと思うわ。」

大翔にはいっさい、迷いはなかった。

「...はい。お母さん、お姉ちゃん、ぼく、あすかになるね。」

「あ~、ひろくん、ダメじゃない、その言葉。女の子は、ぼくなんて言っちゃ、だめよおぉ。」

「あっ、そうだったね。」

3人で笑顔になった。

「じゃぁ、今日から、あすかって呼ぶわよ。」

「うん、お母さん、お姉ちゃん、ありがとう。ほんとうにありがとう。」

3人家族の生活は、この日から、ときどき大翔があすかに変身したときは、直美、優菜、あすか、女性3人の家族となった。

---2015年、田口あすか、17歳。


***

その後しばらく間、毎食後は3人で自然の流れで、定例打ち合わせが行われるようになった。議題は、『あすかの女子化推進計画』。

言葉遣い、仕草や立ち振る舞い、そして洗顔やメイクなどなど、あすかが女子であるために、いっぱいのやらねばならないことのリストを作成。それらをどう進めて行くか、3人で計画を立てていたのである。

「髪は当分、切っちゃだめよ。肩くらいまで伸ばしてから、美容院に行きましょうね。暑くてなれないかもしれないけど、ここは我慢よ。」

「日焼けにも注意しないとね。日焼け止めクリームは毎日つけてね。曇りの日でも、さぼっちゃだめよ。」

「そうよ。なるべく炎天下を歩くことは、避けてね。部活の時は要注意よ。」

ほとんどが、直美と優菜のアドバイスであり、とても楽しく話してそうに見える。

「仕草はもちろん、お母さんに教えてもらわなきゃね。」

「そうね、昔おばあちゃんからさんざん日舞を教え込まれたときの経験、こんなところで役に立ちそうね。」

「だよね。お母さん、とっても女らしいもん。」

「それじゃぁ、メイクは、優菜の担当よ。しっかり教えてげてね。」

「えぇ~、メイクなのぉ~。う~ん、わたしもまだまだだけど、あすかのためにしっかり勉強して、伝授するね!」

天然女子2人の乗り具合を見て、あすかも楽しんでいる。

「あなたが主役だからね、あすか。しっかりと、楽しみながら、修行してね。」

「そう。そしてみんないっしょに、きれいになりましょうね。」

「うん、わたし、がんばっちゃうね。お母さん、お姉ちゃん、ありがと。」

自分のために一生懸命になってくれる母と姉に、感謝の念が込み上げる。

「そうそう、早速お洋服を買わないと。ずっと優菜のセーラー服じゃ、かわいそうだものね。」

「お洋服だけじゃないわ、お母さん。靴とか、ウィッグとか、いろいろ揃えなきゃ。」

「あら、そうねぇ~、楽しそうじゃない。忙しくなりそう!」

ふたりの盛り上がり具合に、若干戸惑い気味のあすかであるが、家族への頼もしさを感じずに、いられなかった。



「あすか。とりあえず、お洋服からよ。こんどのお休みは、ふたりでショッピングセンターへお洋服を買いに行きましょう!」

「。。。うん、ありがとう。」

はじめて女子として、優菜とのお洋服の買い物の約束ができ、あすかはお休みが楽しみでならなくなった。



それからは、3人で過ごす休日は、大翔はほぼ あすか となった。修行という名目で、ほんとうの自分を満喫するようになった。

相変わらず優菜は、いつでもやさしく、あすかを支えてくれた。

女子としての、はじめての外出、お買い物、喫茶店でのおしゃべり、プチ女子会、旅行、...。同じ学校の女子にも、お友だちができた。常に優菜が、そっとフォローしてくれてのことであった。

おかげで修行を重ねた あすか は、月日が流れるごとに女子度がアップ。高校を卒業するころには、あすか はすっかり、誰が見ても疑わぬくらい、自然な女子となっていた。

(第八章へつづく)

コメント

タイトルとURLをコピーしました