[女装小説]最愛の姉への思い・第八章「天国の優菜を想う」

女装小説

(第七章よりつづく)

第八章    天国の優菜を想う

急逝した優菜の墓前に、直美とともにやってきた、あすか。素のままに、優菜への感謝の思いを感じる。

---再び2024年、田口あすか、26歳。

ショッピングセンターを抜け、あすか はようやく、直美と待ち合わせていた場所に到着。

間もなくして直美が、手をふりながら笑顔で近づいて来る。

「お久しぶりぃ~、元気だった?」

「うん、元気。お母さんこそ、なんかますます若返った感じじゃない」

「ありがと。ひろくん、やっぱりそれ、優菜のお洋服で来たのね。似合っているわ。」

「あらやだ、お母さん、わたし今日は あすか よ。もう、間違わないでよぉ。」

「ごめん、ごめん。久しぶりで、間違えちゃったわ。」

笑いながら二人で歩き、向かった先は、共同墓地。2人が立ち止まったところに、田口家のお墓が立っていた。

墓石にはふたりの名前が刻まれている。父の名前と、そして、田口優菜。

優菜は5年前の23歳のとき、交通事故にて、突然この世を去っていたのであった。

病院にかけつけたときには、すでに息を引き取っていた。ほんとうに、あっけないお別れであった。

この日は、その6回目の命日。直美とあすか、ふたりでお花を供えて線香をたき、墓前で手を合わせる。

「お姉ちゃん、天国で元気にしているかしら?わたしとお母さんは、元気でいるからね。」

心で呟く。

「いまも あすかとして人生を楽しめているのは、お姉ちゃんのおかげよ。心から感謝しているからね。ありがとう。」

その後、直美とあすかは近くのレストランで、ランチとお茶とおしゃべりを楽しんでいる。

「あすか、一人暮らしをはじめて、どんな感じなの?」

「うん、とても楽しいよ。毎日、気楽に過ごせちゃう。」

「仕事は忙しいの?」

「そうねぇ、最近忙しくなってきちゃって、帰りが遅いの。だから、お休みはしょっちゅう、あすか になってリラックスしているの。」

「うふふ、もうその姿、すっかり自然になっているわね。どれだけ変身しているか、想像ついちゃうわ。」

「だってぇ、楽しいのだもん。いいじゃない。で、そうそう。お母さんこそ再婚しちゃって、その後どうなのよ?」

「う~ん、結構楽しく過ごしているよ。」

「へぇ、よかったね。新しいお父さん、やさしそうだもんね。」

「そうなの。やさしいよぉ~。わたしが作ったお料理、なんでも美味しいって、言ってくれるのよ。(笑)」

「あらぁ、のろけられちゃった。(笑)」

「あすか、あなたはどうなのよ?いいお相手は、いるの?」

「う~ん、さぁ、どうかしらねぇ?」

「うふふ、隠してそうだね。お相手はどんな方でも、あすかのことをしっかり理解してくれる人を、選んでね。」

「うん、そうね。」

「優菜もきっと、それを望んでいると思うわ。」

「そうだね、お母さん、ありがとう。お姉ちゃんにも感謝しなくちゃ。」

「そうね。」

「来年はもう、お姉ちゃんの七回忌になるわね。」

「早いわねぇ。ほんとうに、あっという間...。」

「...。」

店を出て直美と別れ、あすかは帰路の電車で空を仰ぐ。

「明日からまた、毎日楽しんでがんばろう。」

とても晴れやかになっている自分の心に、ほっこりしていたのであった。

---2024年、田口あすか、26歳。大翔とともに生きている。

コメント

  1. しゅう より:

    とても素敵な小説をありがとうございました。セーラー服への関心を抑えきれず、始めて着用したときの感動と背徳感。そんな弟の気持ちに気づき、そっと背中を押してくれる優しい姉。勇気を出して家族にカミングアウトする大翔。そんな彼を受け入れる姉と母。前向きでありつつも、悲しいエピローグ。どの場面も印象的でした。全編を通して、女性らしい言葉遣いで綴られているところも大変良かったです。こちらのサイトに出会えて幸運でした。改めてお礼申し上げます。

    • しゅうさま

      とってもうれしいコメントをいただき、ありがとうございます!
      自分の経験を織り込みながら、初めて綴ってみた作品になります。

      うれしくて、また執筆に挑戦しちゃおうか、って思ってしまいました。(笑)
      またよろしければ、お立ち寄りおねがいいたします。m(_ _”m)

      りえ

      • しゅう より:

        早速返信いただけて感激です。

        私自身はちょうど1年前に偶然目にした婦人服の販売サイトに強烈に引き込まれてしまい、始めて女性ものを購入しました。それからは自分の中の歯止めがなくなったようで、リサイクルショップや通販で服、下着を次々に買うようになりました。

        初めて婦人服・下着を身につけたとき、人生で経験したことのない着用感・肌触りに感動したのを今でも覚えています。また着用した姿を鏡で見たときの、違和感・背徳感も新鮮でした。

        しばらくは妻子に隠れて着用していたのですが、昨年末にカミングアウトし、概ね受け入れてもらうことができました。今では、下着は普段着として、服は夜、パジャマ代わりとして着用しています。

        それまで「(紳士)服は外出するために仕方なく着る」感覚だったのが、婦人服では選ぶこと、眺めること自体に、着用することと同等以上の楽しさがあることに気づき、自身の世界観が変わったように思います。今回、こちらの小説をきっかけにそれらの感覚が蘇り、大変感慨深く読むことができました。特に、大翔さんが家の中のセーラー服を見つけた場面、初めて手を通すシーン、姉にカミングアウトする際、各場面での興奮と緊張感を自分の経験と重ねて読み進めました。

        現在、当ブログのその他の記事を拝見しています。自分の未経験の世界を知ることが出来、とても興味深く感じています。お時間があれば、作者様のご経験を記事にいただければ幸いです。

        • いろいろとお話くださり、感謝いたします。
          また、わたしとまったく同じ感性をお持ちのようで、とてもうれしく思いました。

          女性の衣服を身に纏うことにより、わたしも自分自身のいろんな内面が発見できたと思ってます。おのずと気持ちが和らぐのが実感できます。

          たとえば女性の姿で街を歩いているとき、男性であるとわからないいろんな面で、女性なりの苦労や楽しみ方に、少しだけ触れられた気分になります。
          見え方が異なるのが不思議かつ新鮮なものでして、自分が成長できた気分にもなるのです。

          それにしても、ご家族の方の理解を得られたようで、しゅうさんがとてもうらやましい限りです。素敵なご家族なのですね。
          感謝の気持ちを忘れない、しゅうさんの人柄が、垣間見えた気がしました。

          本ブログでは、わたしの経験を少しづつ、記事に綴っていこうと思ってます。
          よろしければこれからも、よろしくおねがいいたします。

          なかたにりえ

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