[女装小説]最愛の姉への思い・第二章「成長と気付きと目覚め」

女装小説

(第一章よりつづく)

第二章    成長と気付きと目覚め

幼少期から中学時代。成長に伴い、大翔の心の中や生活環境で起こっている、変化の変遷。さまざまな目覚めの時期でもあった。

---2003年、田口大翔、5歳。

保育園児の大翔、女の子の友だち2人といっしょに、3人で部屋の中で遊んでいた。

3人でなにやら雑誌を囲み、仲良さそうに顔を突き合わせながら眺め、楽しく語らっている。大人向けのファッション雑誌のようだ。

ページをめくったところに、中学生と見える女学生数人が、並ぶ写真が載っていた。それぞれ異なるデザインのセーラー服姿。皆、ちがう学校の女子生徒なのだろうか?


中学生とは言っても、保育園児3人にとっては、すごく大きなお姉さん。大人くらいにも見える女子たちに、3人は羨望を含んだ目で見ている。

1人の女の子が写真中央の、白いスカーフの女子を指差す。

「わたし、この服、着たい!」

すると、もう1人の女の子も負けずに、指さす。

「じゃ、わたしは、これ~!」

ブレザー系の紺の制服。チェックのスカートが可愛らしい。

流れにそって、こんどは大翔。

「ぼくは、これが着たい!」

大翔にとって、最も輝いて見えた、左端の赤いスカーフにブリーツスカートのセーラー服を指差した。


しかし、3人の輪は途端に、2人の女の子の笑い声に包まれた。

「きゃはは、だめよぉ~」

「え、どうしたの?」

「だって、大翔くんは男子でしょ。だから、このお洋服じゃないのよぉ。」

「そうよ、男子は、これじゃないのよ。」


いまだ笑顔の2人の横で、

「あっ、そっかぁ~。間違っちゃった。」

愛想笑いでおどけ、3人で笑ったあとは、なにごともなかったかのようにすぐさま、ページをめくって次の話題に花を咲かせる。

しかし大翔の心中は、何とも言えぬ大きな疑問とショックに包み込まれていた。

「そっかぁ、ぼくは男子だから、大きくなってもセーラー服を着ることが、できないんだな...。」


その日のその後、3人でなにをして過ごしたのだか、まったく覚えていない。その疑問だけは、頭の中にずっと重たく残っていた。

これが、大翔にとって生まれて初めて、普通の男子とはちょっとちがう自分のことに気付いた瞬間であった。

***

大翔の家族は3人。母・直美と、2つ上の姉・優菜。

父は、自分が生まれる少し前に病で亡くなったようで、写真でしか顔を知らない。とても家族思いの父であったと聞いている。

母の直美は、一人で二人の子を育てた。出版社に勤務し、忙しく働きつつ、周囲からの協力を得ながら女手一人で、優菜と大翔を育てた。

どんなときでも家族を愛し、かつ誰に対しても感謝を忘れない態度で接する人柄。なので、社内外のいろんな人から信頼を得ている。今では会社では、管理職に推されるほどであるようで、直美は優菜や大翔にとって、誇りであり、とても尊敬されている。

優菜は家事手伝いや、大翔の面倒を見て、家族を支えた。そんな優菜と直美を見て、大翔もできるだけ、家事の手伝いを行うようになっていた。

***

---2008年、田口大翔、10歳。

当時、大翔は小学生、優菜は中学に入学。仲が良く絆が厚い3人家族、幸せな家庭であった。

特段、姉の優菜に、大翔はとても甘えていた。世話好きで、学校中のみんなから好かれる存在でもあり、それもまた自慢でもあった。大翔は優菜が、大好きであった。

またそのころから、優菜がなんとなく、少しずつ、きれいになっていくのを感じていた。

しかし照れくささもあり、意識をせずに過ごしていた。と言うか、意識することを避けていたのが、正解であった。

自分にとって大切な優菜が、大人になって自分から離れていってしまうことを、恐れていたのかもしれない。

ときおり、優菜のファッションには目が留まった。思春期の熱い心が、姉のファッションに向かう。成長にそって、垢ぬけて華々しい洋服を着るようになる優菜が、とても眩しく映っていた。

優菜に対する憧れの気持ちとともに、大翔が確実に感じていたことは、

「お姉ちゃん、素敵な服を着ることができて、いいな。」

といった思いであった。



***

---2011年、田口大翔、13歳。

地元の中学に入学。男子の大翔は学生服、同級生の女子は、みんながセーラー服姿で学校に集う。

真新しいセーラー服に身を包んだ女子たちが、そばでいっぱい並んでいる。小学校まではそれほど意識せず感じず接していた女子がみんな、眩い姿に映った。


男子たちは少なからず感じる、性の意識。

ところが大翔の場合、少し異なるようだ。あの保育園時代、セーラー服に対する欲望がフラッシュバックしてしまった。

「こんな可愛いらしい姿で、毎日学校に通うと、楽しいだろうな。」


しかし、

「いや、だめだめ、ぼくは男子だから、そんなことを考えるなんて、絶対に許されないよね。」

本音を振り切るかのように、あえて男っぽく過ごした中学時代。運動系の部活に入部し、毎日をただ練習に明け暮れて過ごしていた。

(第三章へつづく)

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