( 第一章 よりつづく)

数週間後、二人はいつもの隠れ家のようなラブホテルにいた。
ふたりきりになれるこの時間が愛おしく、部屋の鍵が閉まった瞬間、吸い寄せられるように熱いキスを交わした。

「お湯、ためてくるね」
拓哉が立ち上がろうとした時、どこか思い詰めたような隆一の雰囲気に気づいた。
何かを言いたいのに、「こんなことを言ったら嫌われてしまうかもしれない」と恐れているような、切ない葛藤が背中から伝わってくる。
拓哉はそっと腕に触れ、優しく微笑みかけた。
「隆一さん、ぼくにはなんでもいいから、話してね」
意を決した隆一が鞄から取り出したのは、一揃いの艶やかな女性用下着と、紺色のセーラー服だった。
「拓哉……これを着てくれないか?」
一瞬、息を呑んだ。
しかし、拓哉の胸を真っ先に満たしたのは戸惑いではなく、あふれんばかりの嬉しさだった。
隆一が心の一番深い場所に秘めていた切ない願望を自分に明かしてくれたことへの感謝、そして彼が自分だけに求めてくれたことへの喜び。
自分がセーラー服を纏うという未知の胸の高鳴りに、身体の奥から甘い熱が沸き上がっていくのが分かった。

「ぼくは、隆一さんが喜ぶことなら、なんでもするよ。だって、隆一さんのことが好きだから」
更衣室の鏡の前で服を脱ぎ、レースの下着に袖を通す。
つややかな生地が素肌を滑る感触に、ゾクゾクとするような快感が走った。
セーラー服を頭から被り、青いスカーフを結ぶと、そこには可憐で背徳的な「女の子」としての自分の姿があった。

うっとりと鏡の中の姿を見つめ、思わず嬉しさで笑みがこぼれる。
けれど、これを隆一に見せるのだと思うと、一気に激しい羞恥心と「受け入れてもらえるだろうか」という微かな不安が押し寄せてきた。
意を決してドアを開け、照れくさそうに頬を染めてベッドルームへと進む。
「……恥ずかしいな、隆一さん」
その姿を目にした瞬間、隆一の中の理性のタガが音を立てて外れた。
いつも穏やかな大人の男性である隆一が、これまでに見たこともない熱情を露わにして立ち上がり、拓哉の細い体を力強く抱きしめた。
「拓哉……きれいだ。息が止まりそうだ」

掠れた声で呟く隆一の荒い息遣いと、身体から立ち昇る凄まじい熱気。
いつもの優しい隆一が、一人の激しい「男」になって自分を求めている。
その迫力と逞しさに拓哉は恐怖どころか、突き上げるような歓喜と幸福感を覚えた。
自分という存在が、この人をここまで狂わせているのだ。
重なる唇は貪るように激しく、肌と肌が密着するたびに背徳感を超えた官能の波が二人を飲み込んでいく。
激しく熱く絡み合いながら、拓哉は隆一の強い腕の中で深く満たされていった。
ふたりだけの閉ざされた世界で、この愛おしい時間が永遠に続けばいい――そう強く祈りながら、拓哉はどこまでも愛の深淵へと沈んでいった。
( 第三章 へつづく)

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